豚こまをお湯で洗うと本当に柔らかくなる?|ハム工房 HISAMATSU

豚こまをお湯で洗うと本当に柔らかくなる?

最近、SNSなどで「豚こまは焼く前にお湯でさっと洗う」という下処理をよく見かけます。結論からお伝えすると、これはお湯が魔法のように豚こまを柔らかくしてくれるわけではありません。実際には、脂が軟化してほぐれやすくなることや、水分が焼き上がりに影響することなど、いくつかの作用が重なっています。今回は食肉を専門に扱う工房として、この下処理で実際に何が起きているのかを解説します。

豚こまを焼く前にお湯へくぐらせる下処理とは?

私たちもSNSでこの下処理方法を目にする機会が増え、食肉を扱う工房として気になっていました。紹介されている方法にはかなり幅があり、50℃前後のお湯をかけてさっとほぐすやり方もあれば、70〜80℃程度のお湯にくぐらせる方法、沸騰したお湯に入れて表面が白くなるまで加熱する方法まで、温度も時間もまちまちです。

この幅の広さからもわかるとおり、湯どうしは「一つの決まった処理」ではなく、温度・時間・肉の厚さによって肉に起きる変化が変わる処理です。ですので「湯どうしをすれば必ずこうなる」と一括りに考えるのではなく、何が起きているのかを分けて見ていくことが大切です。

なぜ「ほぐれやすくなる」のか?脂が軟化する仕組み

豚こまがパックの中でくっついている主な理由は、冷蔵温度で固まった脂肪です。肉表面の水分や肉汁も関係していますが、脂が冷えて固まることで肉片同士が接着したような状態になっています。

そこへお湯を当てると、冷えて固まっていた脂肪が温められて軟らかくなります。すると肉片同士の接着がゆるみ、一枚一枚をほぐしやすくなるのです。これは、豚こまの湯どうしがもたらす効果のなかでも、もっとも理にかなった部分だといえます。

肉がほぐれることには、もう一つ大切な意味があります。豚こまをそのままフライパンに入れると、肉片が重なり合ったまま加熱されることがあります。すると外側は火が通っているのに内側はまだ生、という状態になりやすく、外側を余計に加熱してしまいがちです。あらかじめ肉をほぐしておけば肉片同士の重なりが減り、火の通りが均一になります。つまり湯どうしは、肉そのものを柔らかくするというより、その後の加熱をムラなく行うための下準備という側面が大きいのです。

「柔らかくなる」と言い切れない理由

肉の柔らかさは、筋線維やタンパク質の状態、水分の保ち方、加熱の温度や時間など、いろいろな要素が組み合わさって決まります。

豚肉のタンパク質は加熱すると変性し、筋線維がキュッと縮んで水分が外へ逃げていきます。加熱温度が高くなるほど、この水分の流出は大きくなる傾向があります。つまり、先にお湯で温めることがそのまま柔らかさにつながるとは限らず、加熱の仕方によってはむしろ引き締まって硬く感じられることもあるのです。

湯どうしで肉質がどう変わるかは、お湯の温度や時間によっても変わってきます。「豚こまを湯どうしすれば必ず柔らかくなる」と思い込むのではなく、ほぐしやすくするための下処理のひとつとして捉えていただくのが、私たちとしてもちょうどいい距離感だと感じています。

焼き上がりを左右する「水分」の落とし穴

湯どうしをするうえで、意外と見落とされがちなのが「水分」の存在です。肉の表面に水分が多く残っていると、フライパンに乗せたときにその水分が蒸発するまで表面温度が上がりにくくなります。香ばしい焼き色をつけるためには、肉の表面がしっかり乾いた状態で高温にさらされることが重要です。

そのため、湯どうしをしたあとに水気を拭き取らずそのまま焼いてしまうと、焼くというより蒸すような状態になり、焼き色が付きにくく、水っぽい仕上がりになりやすくなります。せっかくのひと手間を活かすなら、湯どうしのあとはキッチンペーパーなどでしっかり水気を切ってから、高温で手早く焼き上げることが仕上がりを左右する大切なポイントになります。

豚こまのひと手間を正しく理解するために

豚こまを焼く前にお湯にくぐらせるひと手間は、魔法のように柔らかくしてくれるわけではありません。ただ、冷えて固まった脂がやわらいで肉がほぐれやすくなることや、加熱ムラを防げることは、私たちが日々豚肉を扱うなかでも納得できるポイントです。水気をしっかり切ってから焼くことも忘れずに、ちょっとしたひと手間で、いつもの豚こまをよりおいしい食卓に仕上げていただければうれしいです。

筆者について

久松勇斗

久松勇斗

ECエンジニアから、ハム職人へ。

2021年に新卒でアクセンチュアに入社し、大手企業のECサイトをつくるエンジニアとして経験を積んできました。現在はその経験を活かし、家業であるハム工房 HISAMATSUのオンラインストアを運営しています。

IT業界から食肉製造業へ。将来はハム職人として家業を継ぐことが目標です。今はECを通じて、手づくりハム・ソーセージの魅力を全国へ届けています。

一番好きな商品はアイスバイン。

切り落としと小間切れ、そして「豚こま」の違いとは?精肉のプロが教える使い分け

関連記事
切り落としと小間切れ、そして「豚こま」の違いとは?精肉のプロが教える使い分け

塩漬けの効果とは?肉質を変える塩の力

関連記事
塩漬けの効果とは?肉質を変える塩の力

豚肉の保存方法|冷蔵・冷凍で美味しさを長持ちさせるコツ

関連記事
豚肉の保存方法|冷蔵・冷凍で美味しさを長持ちさせるコツ