「もつ」の呼び名はなぜ複雑?部位の正体を解説|ハム工房 HISAMATSU

「もつ」の呼び名はなぜ複雑?部位の正体を解説

「もつ」は地域や業界によって指す部位が変わることをご存じでしょうか。ヒモ、シロ、テッチャンなど呼び名は数多くありますが、実はその範囲や意味は一様ではありません。私たちはハムやソーセージを製造する中で、この「もつ」の呼び名の揺れを日々実感しています。今回は豚もつの部位名称にまつわる豆知識を整理します。

「もつ」は正式名称ではなく業界用語だった

そもそも「もつ」という言葉は、医学的・解剖学的な正式名称ではありません。食肉業界では内臓類を「もつ」や「ホルモン」と呼ぶ習慣がありますが、より正式な業界用語としては「畜産副生物」という言葉が使われています。

日本食肉消費総合センターの説明によると、畜産副生物とは家畜をと畜・解体した後、枝肉と原皮を除いた部分の総称です。内臓だけでなく、頭肉や尾、脚、骨、血液なども含む、想像以上に広い概念になります。食用となるものは「畜肉副生物卸売業」という業態で扱われ、私たちのような加工業者もこの流通の先で原料を受け取っています。

日常会話では「もつ=内臓全部」という理解でおおむね通じますが、業界的にはもう少し広い枠組みで捉えられているわけです。

豚もつは実は20部位に分けられる

「豚もつ」とひとくくりに呼ばれることが多いのですが、実際にはかなり細かく分類されています。日本食肉消費総合センターによると、豚の内臓は「豚可食副生物小割整形処理基準」という基準に基づき、20種類に分割されると説明されています。

代表的なものを挙げると、心臓は「ハツ」、肝臓は「レバー」、腎臓は「マメ」、胃は「ガツ」、小腸は「ヒモ」、大腸は「ダイチョウ」、舌は「タン」、子宮は「コブクロ」、足は「トンソク」といった具合です。農林水産省が公開している部位の資料でも、これらの内臓が細かく整理されています。

つまり「豚もつ」という表記だけでは、実際にどの部位を指しているのか判断できない場合があるということです。私たちが原料として受け取る際も、この分類を踏まえて部位ごとに扱いを分けています。

「シロ」「テッチャン」の呼び名が揺れる理由

「シロ」「テッチャン」の呼び名が揺れる理由|ハム工房 HISAMATSU

「ヒモ=小腸」という呼び方は比較的はっきりしていますが、「シロ」や「テッチャン」は地域や業界によって指す部位が変わります。

日本食肉消費総合センターの用語集には「白物(シロモノ)」という言葉があり、胃・肺臓・子宮・大腸・小腸など、白っぽい可食内臓をまとめて指すとされています。私たちの工房でも、自家農場豚を処理していただく際、胃や大腸、小腸などが「白物」としてひとまとめに納品されます。検査に合格したものだけが食用として扱われるため、白物という区分は単なる呼び名ではなく、流通や検査の実務にも関わる分類だと日々感じています。

一方「テッチャン」は、公的な食肉用語では牛の大腸を指す用例が強く、豚の大腸を指す言葉として全国共通で使われているわけではありません。混同を避けるなら「ダイチョウ」と呼ぶほうが正確です。

沖縄では「中身」という呼び方がある

沖縄では「中身」という呼び方がある|ハム工房 HISAMATSU

呼び名が地域で変わる例としては、沖縄も興味深いところです。沖縄では豚の大腸・小腸・胃をまとめて「中身(なかみ)」と呼び、これをすまし汁に仕立てた「中身汁」が郷土料理として親しまれています。本州では「もつ=濃い味の煮込みや焼肉」というイメージが強い一方、沖縄では「中身=豚の内臓を澄んだ汁物にする」という、まったく異なる食文化が根づいています。農林水産省の資料では、沖縄には「鳴き声以外はすべて食べ尽くす」という言葉が伝わるほど、豚を余すところなく食べる文化があると紹介されています。同じ「もつ」でも、地域によって呼び名も料理法も大きく異なることが分かります。

「もつ」が食卓に届くまでの知られざる工程

「もつ」が食卓に届くまでの知られざる工程|ハム工房 HISAMATSU

もつが食卓に並ぶまでには、意外と知られていない工程があります。厚生労働省によると、と畜場では生体検査、解体前検査、解体後の内臓・枝肉などの検査が段階的に行われ、検査に合格したものだけが食用に供される仕組みになっています。つまり「もつ」は、豚から取り出した内臓をそのまま流通させているわけではありません。

私たちの工房でも、屠畜場に自家農場豚を卸したあと、その日のうちに枝肉を持ち帰れるわけではなく、受け取りは翌日になります。これは検査や処理の工程を経ているためで、内臓についても同様の丁寧な工程を経て初めて、白物として私たちの手元に届きます。

また、豚肉や豚内臓については2015年6月12日以降、生食用としての販売・提供が明確に禁止されています。「新鮮だから生でも大丈夫」という考え方は、現在の食品衛生の観点では当てはまりません。もつ料理を楽しむ際は、こうした背景も知っておくと安心です。

もつ部位マップ

最後に、今回紹介した部位を表にまとめます。

 部位 主な呼び名 食感・特徴
小腸 ヒモ 脂が多く、コク・ジューシーさがある
大腸 ダイチョウ(地域によりシロ等) 小腸より太く、コシ・歯ごたえがある
直腸 テッポウ 厚みと弾力が特徴
胃 ガツ 弾力・コリコリ感、淡白
心臓 ハツ 緻密な心筋によるコリコリした歯触り、臭み少なめ
肝臓 レバー 濃厚な味わい
腎臓 マメ 独特の風味、脂少なめ
子宮 コブクロ コリコリした食感

「もつ」というひとつの言葉の中には、部位の分類、業界の規格、地域の呼び名、検査や流通の仕組みまでが重なっています。呼び名の背景を知ると、次にもつ料理を食べるときの見え方が少し変わってくるのではないでしょうか。私たちも、自家農場豚と向き合う中で、こうした一つひとつの工程を大切にしながら日々の加工に取り組んでいます。

筆者について

久松勇斗

久松勇斗

ECエンジニアから、ハム職人へ。

2021年に新卒でアクセンチュアに入社し、大手企業のECサイトをつくるエンジニアとして経験を積んできました。現在はその経験を活かし、家業であるハム工房 HISAMATSUのオンラインストアを運営しています。

IT業界から食肉製造業へ。将来はハム職人として家業を継ぐことが目標です。今はECを通じて、手づくりハム・ソーセージの魅力を全国へ届けています。

一番好きな商品はアイスバイン。

豚もつの下処理は必要?答えと正しい手順を解説

関連記事
豚もつの下処理は必要?答えと正しい手順を解説

豚肉の格付けとは?5段階のランクを解説

関連記事
豚肉の格付けとは?5段階のランクを解説

豚肉の歴史と特徴|三元豚・SPF豚を徹底解説

関連記事
豚肉の歴史と特徴|三元豚・SPF豚を徹底解説